なにごともなく、晴天。

高架下商店街の人々と謎めいた女探偵、銭湯とコーヒーの湯気の向こうのささやかな秘密──。『つむじ風食堂の夜』の著者による愛おしく懐かしい物語。書き下ろしを含む完全版。

遠くの街に犬の吠える

差し出した掌へはらはらと舞い降りてくる白い小さな花びらのようなものは、萬年筆の青インクがにじんだ文字の断片をのせた、ちぎれた便箋だったー消えゆく声、届かなかった言葉、過去の音、コーヒー、古びたビルディング、屋上…いくつもの偶然によって織りあげられる吉田篤弘の世界。秘められた恋と、ささやかな冒険のものがたりが始まる。著者による解説「遠吠えの聞こえる夜」収録。

岩波文庫的 月の満ち欠け

あたしは、月のように死んで、生まれ変わるーーこの七歳の娘が、いまは亡き我が子? いまは亡き妻? いまは亡き恋人? そうでないなら、はたしてこの子は何者なのか? 三人の男と一人の女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく、この数奇なる愛の軌跡。プロフェッショナルの仕事であると選考委員たちを唸らせた第一五七回直木賞受賞作、待望の文庫化。(特別寄稿:伊坂幸太郎)

よこまち余話

ここは、「この世」の境が溶け出す場所ーお針子の齣江が、皮肉屋の老婆トメさん、魚屋の少年・浩三らと肩寄せ合う長屋では、押し入れの奥に遊女が現れ、正体不明の「雨降らし」が鈴を鳴らす。秘密を抱えた路地を舞台に繰り広げられる、追憶とはじまりの物語。巻末に堀江敏幸氏と著者の対談を収録。

寝ぼけ署長

五年の在任中、署でも官舎でもぐうぐう寝てばかり。転任が決るや、別れを悲しんで留任を求める市民が押し寄せ大騒ぎ。罪を憎んで人を憎まず、“寝ぼけ署長”こと五道三省が「中央銀行三十万円紛失事件」や「海南氏恐喝事件」など十件の難事件を、鋭い推理と奇抜な発想の人情味あふれる方法で次々解決。山本周五郎唯一の警察小説。