野蛮な読書(第二章 宇能鴻一郎私論)より

雨が森林に降りそそいで山肌にたっぷり浸みこんだのち、何年も何十年もかけて岩や石のあいだを縫い、土中をくぐり抜け、透明な清水となってふたたび湧き出るような、よけいなものが混じっていない濾過された文章。(中略)むだのない直截(ちょくせつ)さは、だからこそすがすがしい。そして読む者にすべてがゆだねられている。

野蛮な読書より

本の運命(本と精神分析)より

 本を読むことと精神分析というのは、とてもよく似ているんじゃないでしょうか。(中略)精神分析医は、ある意味では作家なんですね。話を聞きながら、その人を主人公にしたひとつの物語を作り上げる。(中略)患者が体験したことを整理して物語にしてあげると、患者は癒されていくんですね。
 自分の悩みや苦しみを、ひとつの物語として捕まえる、物語の力を借りてそれを理解し、自分の手の内に入れる。それが精神分析ではとても大きな役割を果たしているようです。

本の運命より