あの日、あの時、僕は妻を助手席に乗せ、車を運転していた。
母が入院しており、面会するために、病院へ向かっていた。
突然、めまいのような違和感を覚え、それが地震だとわかるまでに少し時間がかかった。車を左に寄せて、停車した。街灯や標識が大きく揺れていた。震度5強だった。
病院へは15分後くらいに着いた。エレベーターが止まっていて、9階まで階段を上った。疲れよりも、なんだかよくわからない焦燥感があった。
病室のテレビに、津波の様子が映っていた。今この瞬間に、それが東北地方で起きている事実であると理解はできるのだが、何も感じることができなかった。ただ黙ってそれを見ていた。
あれから10年が経った。
被害の有無に関わらず、すべての人に同じ長さの時間が流れた。
母は、もういない。