最後に公衆電話を使ったのはいつだったろう。
かつて公衆電話は町の一部だった。屋内外を問わず、あちこちに公衆電話があり、駅前や構内では順番待ちの人が並んでいた。町中に公衆電話があること、それを使うこと、並ぶこと。みんな当たり前のことだった。
そんな時代を過ごした僕だけど、今も変わらず「公衆」の「電話」を使えるだろうか。つまり不特定多数の人が使う(触れる)電話機を、その受話器を、何とも思わずに使えるだろうか。もちろんコロナ禍の今は言うまでもない。だけどその前の段階ではどうだったんだろう。平気だったのか、すでにダメだったのか。いずれにしてもアフターコロナは、よほどの理由がない限り使いたくない。使えない。それが今の正直な気持ちだ。
自己評価によれば、僕は潔癖症ではない。どちらかといえば「ずぼら」だったと思う。それでもコロナ騒動の前から、日本がどんどん「除菌・無菌社会」になっていくのは感じていて、僕はそれに対して否定的ではあったのだけれど、それでも知らないうちに、無自覚な部分で、僕自身の潔癖度もあがってしまっていたようだ。そして一度その感覚を身につけてしまうと、もとに戻すのはかなり難しい。公衆電話の件がまさにそれだ。
そんなわけで僕は、コロナ後の世界がちょっと怖い。いや、かなり怖い。潔癖症の問題だけではなく、異常な世界で身についてしまった常識は、平時になったら元に戻せるのだろうか。そもそもそれが身についてしまったことにさえ、気づいていないのに。